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大阪高等裁判所 昭和58年(ネ)1929号 判決 1984年6月26日

控訴人 松岡秀雄こと 金鐘槇

控訴人 松岡信男こと 金信男

右控訴人両名訴訟代理人弁護士 酒井武義

被控訴人 廣苅文子

右訴訟代理人弁護士 上野勝

同 浅田憲三

同 大西悦子

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人ら

(一)  原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。

(二)  被控訴人の控訴人らに対する請求を棄却する。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文と同旨。

二  当事者の主張及び証拠

次に付加する当審における主張、証拠のほかは原判決事実摘示中控訴人ら関係部分のとおりであるからこれを引用する。

1  主張

(一)  控訴人ら

控訴人鐘槇は、加害車の管理、保管について何らの過失がなく、控訴人信男に対しても加害車の運転を許諾したのは家族旅行の際など特別の場合を除いては全く無かった。しかるに、控訴人信男は、同鐘槇が出張不在中の昭和五五年六月二七日の早朝から加害車を無断で運転し、翌二八日午後一〇時二〇分ころ本件事故が発生したのであって、この間四〇時間も経過し、また控訴人鐘槇が加害車を保管していた大阪市住之江区東加賀屋町所在のモータープールと本件事故現場とはかなりの距離がある。

控訴人鐘槇は五十嵐とは一面識もなく全くの他人であり、本件事故は控訴人鐘槇所有の加害車を同信男が無断で持ち出し、更に五十嵐が控訴人信男に無断で運転中に発生したものであって、二重の無断使用があり、無断運転者から車を借りた者が事故を起したような事例とも異る。

右のような点からして、控訴人鐘槇の加害車に対する運行支配は失われていたものであり、運行供用者としての自賠法三条所定の責任を負うものではない。

又控訴人信男は、電話をかけるため運転中の被告車を止めて降車したが、その際後部座席にいた水野に同車の管理を委ね、ドアの施錠をせず、同人のためクーラーを作動させておく必要上エンジンキーを抜かずにエンジンをかけたままにしておいたものであって、五十嵐が同車を無断運転することを予見することもこれを防止することも全く不可能であり、かつ同車の管理を水野に委ねていたから、同控訴人には五十嵐の無断運転につき管理上の過失は一切なく、よって同控訴人も自賠法三条所定の責任を負うものではない。

(二)  被控訴人の主張

控訴人らの主張は争う。

2  証拠《省略》

理由

一  当裁判所も被控訴人の本訴請求は原判決の限度で認容し、その余は失当として棄却すべきであると判断する。その理由は次に付加、補正するほかは原判決理由中の控訴人ら関係部分と同じであるからこれを引用する。当審における証拠調の結果は右認定を左右しない。

1  原判決二七枚目表三行目の「前記認定のとおり」の次に「(ただし、右実通院日数は前記甲第五三号証により認めうる。)」を挿入する。

2  同二八枚目表五行目から同一一行目までを次のとおりに改める。

「被控訴人は、控訴人らに本件事故につき自賠法三条による責任があることを理由に本件事故のため原告車が破損したことによる損害をも請求するが、同条によっては右のような物損を請求できないから、右請求は失当である。」

3  当審における控訴人らの主張について

控訴人鐘槇は、本件事故は控訴人信男が加害車を無断で運転使用している間に発生した旨主張するが、引用にかかる原判決理由説示の控訴人鐘槇と同信男の関係、加害車及びそのエンジンキーの保管状況、加害車の使用状況等からして、控訴人信男が同鐘槇の許否にかかわらず何時でも容易に加害車を運転使用しうる状態にあったことは否定しえないところであり、かつて控訴人信男は同鐘槇に告げずに加害車を通勤に使用したこともあったことからして、控訴人鐘槇は同信男の加害車運転使用を黙示的にせよ容認していたと推認できなくはない。本件事故当時における控訴人信男の加害車運転使用を単なる無断運転と同視できず、したがって、控訴人信男が同鐘槇不在の間に加害車を運転使用したからといって、この運転開始時から事故発生時までの時間の長短、加害車保管場所と事故発生場所との距離の大小によって、控訴人鐘槇の加害車運行供用者責任に消長を来すものではない。

控訴人鐘槇と五十嵐の関係が同控訴人主張のとおりであるとしても、本件事故は後記のとおり、五十嵐の過失もさることながら、控訴人信男の過失も直接に原因となっていると認められるのであって、控訴人鐘槇が主張するような無断運転者から更に無断運転をした者の過失による事故の事例とは性質を異にし、控訴人信男の加害車運転使用を容認した同鐘槇としては運行供用者責任を免れることはできない。

次に、控訴人信男の責任については、原判決認定のとおり、本件事故は同控訴人が加害車を停車するにつきエンジンをかけたままとし、エンジンキーを残しドアーもロックせずに放置して車を離れて電話をかけに行ったのであり、その約一五分後に運転免許もなく、めいてい状態の五十嵐が運転装置に触れているうちに予期せず発車したことに基因するものであり、五十嵐が無断で運転中に発生したというのと若干異り、控訴人信男が停車するときにエンジンを停止し、エンジンキーを抜き取るなどの通常の処置をとっていたならば、事故の発生を防止しえたところのものである。控訴人信男としては車を降りるときは極短時間で帰って来るつもりであったかもしれないが、結果において約一五分間も右の状態で放置していたものであり、同控訴人の加害車保管上の過失は明らかであり、その責任は否定しえない。たとえ同乗の水野に依頼したとしても、同人は後部座席に居たものであり、運転席における突発的事故に速やかに対処しえないのが通常であるから、同人に依頼したことをもって控訴人信男の責任が免れうるものではない。

二  それゆえ本件各控訴は理由がないからいずれもこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条、九五条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石井玄 裁判官 高田政彦 礒尾正)

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